酵母とは

koubo2酵母の範疇はすごく広いです。体が単細胞で、有機物を分解しながら成長して出芽や分裂をしていく微生物の総称です。

一方、カビなどのように、菌糸を伸ばす微生物は糸状菌と呼ばれます。

一般的には、食用に用いられる出芽酵母のことを言います。

酵母は、各種の分解酵素を出して、有機物を分解し、細胞内に取り込みます。この有機物を分解することを発酵と言います。

野生酵母

野生酵母は、自然界に当たり前のように存在しています。

例えば、干しブドウを瓶に入れて、35℃のホワイトリカーで一度洗って殺菌し、ホワイトリカーは捨てます。そこにぬるま湯を入れて密封します。

これだけで、発酵します。

蓋を開けるとプシューッて炭酸が沸き上がりました。ほんのりとアルコールの香りもします。これで自家製パン造りの天然酵母の出来上がりです。

干しブドウとお湯だけですよ。少しはちみつを入れてもいいみたい。自然界に酵母が存在することの証明です。

清酒酵母

自然界に存在する酵母がすべて日本酒に適しているわけではないです。

日本酒を造るために使用される酵母のことを清酒酵母と言います。他にも、ワイン酵母、ビール酵母、パン酵母などの分類があります。

清酒酵母は、アルコール発酵力が高く、特有な香味成分を生成する酵母といえます。

言い換えると、清酒酵母とは、

  • 出来るだけ多くのアルコールを、
  • 出来るだけ短期間で生成し、
  • かつ、旨い酒を造れるか、

を、長い期間の中で突き詰めていかれた、人間に都合のいい酵母たちです。

蔵つき酵母

自然界の乳酸菌が入り込んだ乳酸たっぷりの麹水の中で、酸性に強い清酒酵母が生き延びて増殖し、アルコールを生成するに至る。これが伝統的な酒母造りである生酛造りで、

これを繰り返している間に、酒蔵の至る所に、その酵母が住み着きます。この蔵内に住み着いた酵母を「蔵つき酵母」と言います。

生酛造りについては、コチラの記事をご覧ください。→ 製造工程-酒母

協会酵母

しかし,この蔵つき酵母による酒造りは、運が頼りです。酒母をつくるのに十分な量の酵母が自然に入り込むのを祈るしかないわけです。これでは安定した品質の酒を造ることはできません。

それぞれの酒蔵に住み着く蔵つき酵母は、それぞれ違った性質を持っています。その中から優秀な酵母を採取して純粋培養したものを、日本醸造協会が頒布するようになりました。

これが「協会酵母」です。

現在では、生酛造りと言えども、純粋培養の酵母を使用しています。

しかし、蔵独自の特徴を出した酒造り、商品の差別化を図るという意味で、原点に立ち戻って、蔵つき酵母による生酛造りに挑戦する蔵元も出てきてます。

協会酵母の詳細については、コチラの記事をご覧ください。→ 原料-協会酵母

清酒酵母の働き

アルコール発酵

酵母の仕事の第一は、発酵によりアルコールを生成することです。

蒸米のでんぷんは、麹菌の酵素でブドウ糖に分解されます。酵母はブドウ糖を次の3段階でアルコールへと変えていきます。

  • 1分子のグルコース(ブドウ糖)を2分子のピルビン酸に分解します。そのときにリン酸が必要となります。と同時に、ADPがATPに、NAD⁺がNADHに変換されます。
C6H12O6 + 2 ADP + 2H3PO4 + 2 NAD+ → 2CH3COCOOH + 2ATP + 2NADH + 2H2O + 2H+

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  • ピルビン酸からアセトアルデヒドが生成されます。その時、二酸化炭素が取り除かれます。
CH3COCOOH →  CH3CHO + CO2

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  • 最後に、アセトアルデヒドがアルコールに変換されます。
CH3CHO + NADH + H+ → C2H5OH + NAD+

 

清酒酵母はアルコールに弱い?

清酒酵母が、アルコール度20°~22°まで発酵を続けるのに比べて、他の酵母は11°~15程度で発酵が止まります。清酒酵母の特異性は、他の酵母と比べてアルコール発酵力が高いことです。

一般的に、清酒酵母はアルコール耐性が高いから、高度数まで発酵させることができるといわれてきましたが、事実は違っているようです。

実は、清酒酵母は、アルコールに対するストレス耐性が弱いのです。

ストレスに弱いのに、発酵力が高いとはどういうこと?

一般的な酵母は、アルコール濃度が高くなると、アルコール発酵を止めてストレスを回避します。そして、酵母は生存します。

清酒酵母は、この機能が欠落しているんです。だから、アルコール濃度が高くなっても発酵を止めることができないんですね。そして死滅してしまうんです。

さらに、次のような実験結果がもあります。

  • 22%のアルコールに清酒酵母を入れます。1時間後、ほとんど死滅していました。
  • 22%のアルコールに一般酵母を入れます。1時間後、ほとんどが生存していました。

これらから、清酒酵母は、アルコールから身を守る自衛本能が欠落していて、アルコールに弱い酵母であることがわかります。

長い年月の中で、そういうストレス耐性遺伝子が欠落した酵母が選択され続けて、「人間にとって都合のいい=優秀」な清酒酵母が育成されてきたというわけです。

香気成分の生成

酵母の重要な働きの一つとして、香気成分を生成する働きが挙げられます。

蒸米に含まれるたんぱく質は、麹菌の酵素によってペプチドとアミノ酸に分解されます。酵母は、そのペプチドとアミノ酸から、高級アルコールを生成します。

( たんぱく質 → )ペプチド、アミノ酸 → 高級アルコール

 

また、蒸米に含まれる脂質は、麹菌の酵素によって脂肪酸とグリセリンに分解されます。酵母は、その脂肪酸からエステル類を生成します。

( 脂質 → )脂肪酸、グリセリン → エステル

 

この生成された、高級アルコールやエステルが、日本酒の香気成分です。

酵母が生成する主な香気成分

イソアミルアルコール

ホワイトボードマーカー様の香を持つ高級アルコールです。

これ単体ではマジックインキの臭いですから、多すぎるとオフフレーバーと評価されてしまいますが、バランスが取れていれば、本来の日本酒らしい芳香と言えます。

このイソアミルアルコールをいかに効率的に酢酸イソアミルに変換させることができるかが、清酒酵母に求められる力量です。

βーフェネチルアルコール

バラ様の香を持つ高級アルコールです。

フェニルアラニンの生合成に伴って生成されますが、フェニルアラニンによるフィードバック阻害により、その生成は抑制されます。

よって、フェニルアラニンフィードバック阻害を解除した特異株では、βーフェネチルアルコールが高生産されたという結果が得られています。

酢酸イソアミル

バナナ様の香りを持つエステルです。

アセチルCoAとイソアミルアルコールから合成されます。

そこで、イソアミルアルコール高生産酵母が開発されました。思惑通り、酢酸イソアミルの生成量は高まりましたが、同時にイソアミルアルコールの含有量も高まってしまい、ホワイトボードマーカー様の香が目立ってしまいました。

そこでさらに、酢酸イソアミル合成反応を強化した酵母が開発され、イソアミルアルコールは従来と同程度のまま、酢酸イソアミルのみを増やすことに成功しました。

あくなき挑戦ですな。

カプロン酸エチル

リンゴ様の香を持っています。

アセチルCoAとマロニルCoAからカプロン酸が合成され、さらにカプロン酸とエタノールからカプロン酸エチルが合成されます。

カプロン酸エチルを多く生産させるために、その前駆体であるカプロン酸を多く生成する酵母を育成する方法が開発されています。