麹菌とはカビの一種です。

カビというと、パンや餅やみかんにくっついてカビさせ腐敗させたりする悪者のイメージが強いですよね。

しかし、江戸時代にタイムスリプした現代の医者が活躍する「仁」で、青カビから「ペニシリン」を抽出したように、カビには人類にとって有益な側面もたくさんあります。

麹菌も、そんな有益な側面を持つカビの一つなのです。

麹菌とは

糸系菌類に属するカビの一種で、コウジカビ、アスペルギルスなどとも呼ばれます。

コウジカビの特性を利用して、日本酒・焼酎・醤油・味噌・みりん・甘酒などの発酵食品に活用されてきました。 カツオ節も、コウジカビの一種によって旨味が凝縮されるんです。

そうそう、米麹から作る「塩麹」という食品が、健康に良いということでブームになりましたね。

一方、コウジカビの中には、アフラトキシンという猛毒を生成する種類があり、日本の二ホンコウジカビも疑われたことがあります。

しかし、アフラトキシンは高温多湿状態で生成されるため、日本でのコウジカビによるアフラトキシンの生成は可能性が非常に低いとされています。

また、食品に利用されているコウジカビはアフラトキシンの生成能力が失われているという研究結果もあります。

このように、コウジカビにも、良い力と悪い力の両方があるのです。

私たちの先人の知恵と伝統の継承によって、その良い面をうまくコントロールし続けてきたんですね。スゴイことだと思います。

麹と麹菌の違い

「麹菌」とは、カビのことでしたが、「麹」と一文字になりますと、意味合いが少し変わってきます。

「麹」とは、発酵食品に利用するために、米・麦・大豆といった穀物に、コウジカビなどの発酵に有用な微生物を繁殖させたもの。

カビをいっぱい生やした穀物で、食品に利用するためのものを「麹」と呼ぶわけです。

ですから、カビがいっぱい生えたミカンをミカン麹とは言いません。。。

麹の種類

麹菌はその用途によって、いろんな穀物に植え付けられ利用されてきました。

その主なものを以下にご紹介しましょう。

米麹

米に麹菌を繁殖させたものを「米麹」といいます。日本酒・焼酎・泡盛・味噌・醤油・甘酒など広く使用されています。

麦麹

麦に麹菌を繁殖させたものを「麦麹」といいます。麦味噌などに使用されます。

豆麹

大豆に麹菌を繁殖させたものを「豆麹」といいます。豆味噌に使用されます。大豆はタンパク質が豊富なため、八丁味噌に代表される苦味と旨味の多い赤味噌に仕上がります。

 

麹菌の種類

醸造に使用される主な麹菌には、次のような種類があります。

名称 種類 用途
 ニホンコウジカビ  黄麹  日本酒、醤油、味噌
 ショウユコウジカビ  黄麹  醤油でわずかに使う場合あり
 タマリコウジカビ  黄麹  たまり醤油(現在は使われていない)
 カワチコウジカビ  白麹  九州の焼酎
 アワモリコウジカビ  黒麹  泡盛、焼酎
 サイトウコウジカビ  黒麹  泡盛、焼酎

黄麹

二ホンコウジカビ、ショウユコウジカビ、タマリコウジカビなど。

最も使われている麹菌で、黄色がかった緑色の胞子をつけるので黄麹といいますが、実際の米麹は黄色が出るまで育成させないので外見上は白い状態で使われます。

日本酒には二ホンコウジカビを使用します。

でんぷん分解力、たんぱく質分解力、脂質分解力のバランスが良い麹になります。さらにビタミンや芳香成分などの2次副産物も生成します。

30℃以上の高温になると、腐敗を起こし酢酸を生成しますので、気温の高い九州・沖縄ではあまり使用されません。変わって、白麹や黒麹を使用することになります。

黒麹

アワモリコウジカビ、サイトウコウジカビ。

伝統的に沖縄で泡盛を醸造するために使用されていたのが黒麹(アワモリコウジカビ)です。

沖縄の泡盛は、黒麹を使用することが法律で決められています。

黒麹の特徴の一つは、でんぷん分解力(グルコアミラーゼが多量)が圧倒的に強いという点でしょう。加熱していない穀物の生でんぷん粉までも糖化してしまう力を持っています。

もうひとつの特徴は、クエン酸を生成するという点です。クエン酸はレモンに含まれる酸の一種ですが、醪が強い酸性に保たれますので、腐敗を防ぐことができます。気温の高い地方でも安全な醸造が可能となります。

白麹

カワチコウジカビ。

黒麹菌から突然変異した白色固体を、河内源一郎さんが分離して培養したものです。だから、「カワチコウジカビ」といいます。

もともと焼酎も黄麹を使っていましたが、腐敗することが多かったようです。

そこで、河内源一郎さんが沖縄で使用されていた黒麹から、「河内黒麹菌」を分離培養して、九州に広めました。ハイカラ焼酎なんて呼ばれていたようです。

しかし、黒麹はその名の通り胞子が黒色ですから蔵人の体やタンクなど蔵中を汚します。

そこで再び、河内源一郎さんが登場します。新種「カワチコウジカビ」の発見です。その後、九州の焼酎造りは、徐々に黒麹から白麹にシフトしていきました。

しかし現在は、香や味わいの差別化を図るため、黒麹も使用されるようになっています。

白麹の特徴は黒麹と同じで、クエン酸を生成するという点です。このクエン酸によって腐敗を防いでいます。

麹の働き

酵母はアルコール発酵を行うという大切な仕事をしますが、麹はどんな仕事をしてくれるのでしょうか。

麹は様々な酵素を生成。その酵素が米に含まれる様々な物質を変化させてくれるのです。

そんな中でも最も大切な役割というと、「酵母の食べ物を作り与える」という役目です。

天照大神と豊受大神のような関係ですね。

デンプン質分解酵素

米に含まれるデンプン質を、酵母がアルコールに分解できる大きさに加水分解する酵素です。以下の3種類の酵素がそれぞれに働き、最終的にデンプンをブドウ糖に分解していきます。

αーアミラーゼ

デンプンを、任意の位置でグルコース5個単位で加水分解していき、最終的には麦芽糖まで加水分解することが出来る酵素です。αー1,4結合は分解できるのですが、αー1,6結合は分解することができません。

グルコアミラーゼ

デンプンを、非還元末端側からブドウ糖単位で加水分解していく酵素です。αー1,4結合も、αー1,6結合も分解できますが、分子量の小さなデンプンを分解することは出来ません。

αーグルコシターゼ

麦芽糖をブドウ糖に加水分解する酵素です。

 

タンパク質分解酵素

米に含まれるタンパク質を、アミノ酸やペプチドに加水分解する酵素です。アミノ酸は、酵母の生体組成物質でもあり、またお酒の旨味成分でもあります。

酸性プロテアーゼ

タンパク質に作用して、ポリペプチド配列の中央から加水分解する酵素です。

酸性カルボシキルペプチターゼ

ペプチドに作用して、カルボキシル基の末端から、アミノ酸に加水分解する酵素です。

アミノペプチターゼ

ペプチドに作用して、アミノ基の末端から、アミノ酸に加水分解する酵素です。

脂質分解酵素

米に含まれる脂質を、加水分解する酵素です。脂質はアミノ酸とともに、酵母の細胞膜など生体組成に不可欠な物質です。また、細胞内の情報伝達にも寄与します。さらに、香気成分の材料になります。このように脂質は多すぎると味に雑味が入ってしまいますが、必要不可欠な物質です。

リパーゼ

脂質を構成する結合=エステル結合を加水分解する酵素です。