協会酵母とは、日本醸造協会で純粋培養された酵母で、アンプル、スラント、乾燥酵母の形態で全国の酒蔵に頒布されます。
その多くは、各地の蔵元内に棲みすいていた「蔵内酵母」。
蔵内酵母という醸造家にとって極めて大切な資産を、広く公に開放する。そして業界全体で日本酒醸造の技術を高め合う。
このように、協会酵母一つとってみても、醸造に携わる人たちの日本酒への思い、業界発展に対する理念などを感じますね。
目次
協会酵母の種類と特長
酵母には、泡あり酵母と泡なし酵母があります。
かつては、すべて泡あり酵母でした。泡の状態を見て発酵の経過を把握できるという利点がありました。
しかし高泡の状態になるとモロミがタンクからふきこぼれて、無駄にしてしまいますし、泡を消すために泡守りという役割の蔵人を夜通し配置しないといけませんでした。
泡なし酵母は突然変異で出現しました。優良な株を純粋培養することを繰り返し泡なし酵母が研究され、現在は泡なし酵母が主流となっています。
主な協会酵母とその特長を紹介します。( )は、泡無し酵母の名称で、それぞれ元の酵母と特長は同じです。
協会6号(601号)
現在使用されている協会酵母の父ともいえる、最も歴史ある酵母。「新政酵母」と呼ばれていました。
そもそもは、秋田県の蔵元である「新政酒造」さんの蔵付き酵母でした。
この酵母を使って、酒造好適米の「雄町」を50%精白し、長期低温発酵させるという、現代において一般的に行われている吟醸酒の醸造法を確立。
新酒鑑評会の主席を2年連続受賞す快挙を成し遂げました。
この酵母の特徴は、
- 中~低温での増殖力と発酵力が安定している
- 他の蔵付き酵母のそれとに比べて圧倒的に酸が低い
- 吟醸香成分を生成する
昭和5年、この「新政酵母」を醪から取り出して純粋培養してできたものが6号酵母です。
新政酒造さんが、開発した醸造技術、すなわち、高精白、6号酵母、速醸酛、長期低温発酵。
失敗が多かったそれまでの酒造りから一変、上質な酒を安定的に造る方法として、瞬く間に全国に広まっていきました。
協会7号(701号)
現在使用されている協会酵母の60%は、この7号酵母だそうです。
こちらは「真澄酵母」とも言われているとおり、真澄の醸造元である長野の宮坂醸造さんの蔵付き酵母でした。
この酵母を使用した「真澄」は、昭和21年の全国新酒鑑評会と全国清酒品評会の両方で3トップを独占するという快挙を成し遂げました。
そこで、昭和21年に、この「真澄酵母」を醪から取り出して培養、7号酵母として発売されることになりました。
この酵母の特徴は、
- 発酵力が強い
- 華やかな吟醸香
発売当初は吟醸酒造りによく使用されましたが、後発の9号酵母押され気味。発酵力の強さから、普通酒に使われることが多くなっています。
協会9号(901号)
多くの蔵元で吟醸酒用として使用されている酵母で、「香露酵母」と言われます。
熊本県酒造組合が明治42年に設立した熊本県酒造研究所において、初代技師長の野白金一さん(後に吟醸酒の神様と呼ばれる)の手により分離培養されました。
この酵母の特徴は、
- 酸は少ない
- 非常に香気が高い
- 低温での発酵力がつよい
- 前急短期醗酵型の醪になりやすい
一時は、新酒鑑評会入賞の必須アイテムとも言われた、吟醸酒用の酵母です。
協会10号(1001号)
吟醸酒や純米酒によく使用される酵母で、「小川酵母」「明利小川酵母」とも呼びます。
仙台国税局鑑定官室長の小川知可良さんが、東北の蔵元を回って優良な蔵付き酵母を採取して、退官後に就職した明利酒類で、純粋培養を行い、開発した酵母です。
この酵母の特徴は、
- 酸が少ない(特にリンゴ酸)
- 高い吟醸香を出す
- 低温長期型の醪になる
- アルコール耐性が弱い
このように、酸が少ないため、純米酒に向いていますし、吟醸香が高いので、吟醸酒にも向いています。
また、アルコール耐性が弱いので、醪工程後半の温度管理が難しいという面があります。
協会11号(1101号)
協会7号からの突然変異で、アルコール耐性の高い酵母です。
昭和50年日本醸造協会によって分離されました。「アルコール耐性酵母」と呼ばれています。
この酵母の特徴は、
- アルコール耐性が強い
- 醪が長期になっても切れが良い
- アミノ酸が少なく、リンゴ酸が多い。
ですので、アルコール度の高い大辛口酒などのを造るのに向いていると言えます。
協会14号(1401号)
平成8年に、金沢国税局鑑定官室で局内に保管していた酵母から分離したものです。「金沢酵母」と呼ばれます。
この酵母の特徴は、
- 酸が少ない
- 発酵力が強い
- 低温中期型の醪経過
- 吟醸香の生成力が高い
酸が少なく、吟醸香が高いということで、すっきりとした淡麗な吟醸酒に向いています。