お酒の熟成といいますと、大きく2つが考えられます。
ひとつは、タンク内でひと夏あるいは1年間、貯蔵タンク内で過ごすことで酒質を落ち着かせることが目的の熟成。
もうひとつは、何年間も寝かせることで独特な熟成香を生成させ、別のお酒に生まれ変わらせるための熟成です。
目次
貯蔵タンク内での熟成
一般的には、上槽、澱引き、濾過、火入れを経て、貯蔵タンクで半年から1年間熟成させますが、この貯蔵タンクの中で、お酒はどのように変化するのでしょうか?
「丸みを帯びる」「すっきりとする」のメカニズム
よく、「ひと夏越した酒は、荒々しさが無くなり丸みを帯びる」「すっきりとした飲み口になる」な~んて表現されていますが、これってどういうこと?と思いませんか?
目には見えない話ですが、お酒は、80%が水で20%がアルコールです。
新酒では、この水の分子とアルコールの分子がゴチャゴチャになっているので、荒く感じられます
半年から1年で、アルコール分子のまわりを水分子が取り囲む配置が出来上がります。こうなると、人の舌や口内へのアルコール刺激が緩和されるわけです。
よって、荒々しさがなくなり、スルッと喉越しのよい、なめらかなお酒になるということなのです。
「フレッシュから、おだやかへ」のメカニズム
また、「新酒のフレッシュな香から、馥郁としたおだやかな香になる」な~んて表現されますよね。
フレッシュさが減少する理由は、、、
酢酸イソアミルなどの沸点が低い吟醸香系エステル類は、貯蔵中に少しずつ揮発していくからです。
馥郁としたおだやかさが出るわけは、、、
1年間の熟成で増加する香の成分としては、フルーティーな香りを持つコハク酸ジエチルなどのエチルエステル類が少しずつ増加します。この成分は、熟成古酒に多く含まれる成分です。
このようなことから、半年から1年の貯蔵期間を経て、お酒は新酒のときとはまた違った香りと味わいをもつことができるわけです。
長期熟成中の変化
ここ10年、静かなブームとなっている「長期熟成酒」あるいは「古酒」。
貯蔵タンクによる1年程度の熟成期間を経た後も、さらに何年間も熟成させたお酒を長期熟成酒とか、熟成古酒と呼んでいます。
一般的には、空気に触れる面積を少なくするため、瓶詰めしてから保管します。
そして、温度と光に弱いですから、2℃前後の真っ暗な冷蔵庫で、あるいは新聞紙などでくるんで保管し、熟成させます。3年、5年、10年、長いもので30年なんてのもあります。
しか~し、これは蔵内できちんととした管理体制の元で貯蔵が行われるからであって、条件が崩れると、熟成ではなく、老(ヒネ)た酒になってしまいますよ。
さて、この熟成の中で、お酒はどのように変化していくのでしょうか?
フルーティーな芳香成分の増加
吟醸香である酢酸イソアミルなどのエステル類がさらに減少し、コハク酸ジエチルなどのエチルエステル類がさらに増加します。
コハク酸ジエチルはフルーティーな香りで、芳香と言えます。
熟成香気成分の生成
ソトロン、フルフラール、イソパレルアルデヒドなどの熟成香気成分が生成されます。
ソトロンは、黒砂糖に多く含まれる香気成分です。
カラメルシロップやドライフルーツのような、いわば、「甘さを凝縮して煮詰めたような感じの香」の主成分は、ソトロンであろうといわれています。
老香成分の生成
ジメチルジスルフィド(DMTS)などのポリスルフィドが生成されます。
たくあん様の香で、これが、老香の主成分です。これが多いと劣化した酒と評価されてしまいます。
しかし、このDMTSは、熟成期間を重ねるごとに増加していく芳香や熟成香の主成分であるコハク酸ジエチルやソトロンほど増加していきません。
すなわち相対的には減少していくことになり、老香としては感じられないようになっていくのです。
果実香の生成
日本酒内に残されている糖が分解されて、ギ酸が生成されます。
ギ酸はそもそもは毒素でもあるのですが、アルコールと縮合することで、ギ酸エチル(桃香)、ギ酸イソアミル(梨香)、ギ酸アミルは(リンゴ香)に変化します。
主なものを上げましたが、他にも、沢山の成分が生成されています。
年末に居酒屋で、「玉川の山廃純米のビンテージ(熟成酒)」を飲ませてもらいました。
冷やとぬる燗で飲み比べをしましたが、圧倒的にぬる燗が美味しかったです。熟成香がいい感じで口の中に広がって、ほんわかします。こいつと、ふろふき大根。間違いないです。