日本酒の裏ラベルを見ると、原材料の欄に「米」「米麹」「醸造用アルコール」を記載されているものがたくさんあります。

純米酒以外の日本酒には必ず使用されています。もちろん吟醸酒にも。

「アルコール」などと書かれてあると、アルコールランプやアルコール消毒をイメージする方もいらっしゃるでしょう。

このページでは、謎に満ちた「醸造用アルコール」についてご紹介いたします。

醸造用アルコールは何から作られているのかな?

ひとことで言えば、醸造用アルコールは「甲類焼酎」の度数が高いもの。

醸造用アルコールの原料

サトウキビから砂糖を生成する時に、副産物としてといいますか、残りカスといいますか、「廃糖蜜」というものが出来上がります。

こげ茶色のトロ~とした液体です。これが醸造用アルコールの主な原料となります。

(ほかの原料としては、精製糖蜜や甜菜糖蜜などの糖質含有作物、米・サツマイモ・トウモロコシなどのでんぷん含有作物などがあります。)

醸造用アルコールの製造方法

この「廃糖蜜」に、酵母を加えて発酵させ糖蜜のお酒を造り、さらにそれを蒸留します。

ここまでの工程は、ブラジルや東南アジアで行われます。

 

これを輸入して、国内の連続蒸留機で蒸留することで、純度の高いエチルアルコールを取り出します。

 

これが、醸造用アルコールですから、日本で販売されている甲類焼酎と同じなのです。

甲類焼酎メーカーの大手といえば、宝酒造、合同酒精、協和発酵(現:第一アルコール)ですよね。
実は、この3社は、醸造用アルコールの製造メーカーです。

 

醸造用アルコールを添加する目的

では、一体何のために醸造用アルコールを添加するのでしょう。

量を増やすため?

直感的に、それだけではないような気がしますよね。

実は、使用されるお酒の種類によって、使用目的が違うのです。

香りを引き出す

特定名称酒にアルコールを添加する目的のひとつは、香りを引き出すためです。

香気成分は、水よりもアルコールに溶け込みやすいという性質があります。

アルコールの絶対量を増やすことで、酒粕に含まれて出て行ってしまうであろう香気成分をお酒側に取り戻すことが出来るわけです。

淡麗辛口に仕上げる

特定名称酒にアルコールを添加するもうひとつの目的は、スッキリ切れ味よい淡麗なお酒に仕上げることです。

純米酒、純米吟醸、純米大吟醸の旨味成分を、無味無臭のアルコールで薄めると、当然ながら色や米由来の旨味も薄まってしまいます。

これを言い方を変えると、「澄んだ綺麗で淡麗なお酒」という表現に変わるわけですな。

繰り返します。香り高い綺麗で澄んだ淡麗な酒を作るためには、少量のアル添が効果的だということです。

このようなお酒が最高に美味しいと思うかどうかは、個人の好みですが、少なくとも鑑評会では評価が高い時代が続きました。

増量によるコストダウン

は、普通酒のアルコール添加の目的はというと、増量によるコストダウンという目的が大半を占めます。

やっぱりそういう側面もあるのです。なんせ、2倍に増えるんですからね。仕方ないですよね。

救済措置

さらに品質の維持に関する目的としては、救済措置という側面もあります。

具体的には、納得いかない純米酒が出来上がったとき、捨てるのはもったいない。これにアルコールを添加して、本醸造さらには普通酒に格下げして販売する。

雑味の多い純米酒より、スッキリ切れ味のある淡麗辛口の普通酒の方が売り物になるでしょ?

「納得いかない」という部分がミソで、蔵元によってそのレベルは違いますから、基準の厳しい蔵の本醸造や普通酒は、やっぱり旨い、、、のです。

 

殺菌

そしてもうひとつの目的は、といいましょうか、そもそもの目的は殺菌です

稀な事象ですが、醪の工程で、「ヨーグルト香」から「つわり香」がきつくなってきたといった場合、腐造乳酸菌の繁殖が疑われます。

腐造乳酸菌はアルコール耐性がある厄介な菌で、コイツは、最初に発生したタンクだけにとどまらず、他のタンクに伝染していって、蔵全体の酒を壊滅状態にしてしまうという、蔵元にとって非常に恐ろしい菌なんです。

そこで、高濃度のアルコールをぶち込んで、早急に腐造乳酸菌を殺してしまう必要があるのです。

この手法は、江戸時代では柱焼酎と呼ばれていました。

当時は今よりももっと衛生状態は悪く、モロミが腐造することが多かったでしょう。

現在ほどの高濃度なアルコール液体は存在しなかったでしょうが、米焼酎を添加することで、腐造乳酸菌の失活を図ったといいます。

醸造用アルコールの添加方法

100%近い純度の醸造用アルコールを30%まで希釈し、上槽前(搾る前)の2日間をかけてゆっくりと添加していきます。

純度の高いまま注入するのではなのですね。

醸造用アルコールの添加量

お酒の質に合わせて、添加可能な上限が定められています。

・特定名称酒の場合の添加量の上限は、白米重量の10%。(アルコール度95%換算)
・普通酒の場合の上限は、白米重量の50%。(アルコール度95%換算

この量を、出来上がった総アルコールに含まれる醸造用アルコールの比率として表現すると、

・特定名称酒の場合は、24.2%程度
・普通酒の場合は、117%程度

もうすこし、具体的に計算すると、

まず、アル添前の100リットルのモロミのアルコール度数を20度としましょう。
アル添せずに上槽したときの酒粕歩合を20%としましょう。

そうすると、出てくるお酒は80リットルで、その中のアルコールは16リットルですよね。
その16リットルの117%ですから、上限の添加量は、16リットル×117%=27リットルとなります。

この27リットルのアルコールは30%に希釈されて添加されますから、
希釈済みアルコールを約90リットル添加することになります。

ですから、やっぱり倍強のカサ増しになりますね。

な~んだ、すべての普通酒がこのような状態なのか!といいますと、実は違います。

法改正の前は、この普通酒はさらに2つに分けられていて、それぞれアル添量の上限は異なっていました。

・普通アル添酒・・・醸造用アルコールの添加上限は、白米1トンあたり280リットル。糖類等の添加物は不可。
・三増酒・・・醸造用アルコールの添加量上限は、白米重量の100%。糖類等の添加物の使用を認める。

今でも蔵元は、過去の普通アル添の規定を順守して、必要以上のアル添を控えておられるようですよ。

逆に、法改正で三増酒が造れなくなった今、大手酒造メーカーの低価格酒(例えば、○、☽など)の製造コストは間違いなく上がったはずなんですけど、いまだに価格競争から抜け出させない。