札幌から石狩湾岸沿いに走る231号線を北上すること100kmに「増毛(ましけ)」という小さな港町がある。かつてはニシン漁で大いににぎわったらしい。
ちなみに、高倉健さん主演の映画「駅 STATION」のロケ地となった町だ。
南方に聳える暑寒別岳から流れる暑寒別川が作り上げた、日本海に面した扇状地の一番先っちょに、全国新酒鑑評会入賞の常連蔵がある。国稀酒造さんだ。
ここの冬も寒かろう。シベリアから降りてくる寒気を、季節風が容赦ないまでに叩きつける極寒の地だ。
さあ、どんな酒造りを展開しているのだろう。
国稀酒造の歴史
本間泰蔵さんが明治15年に酒造免許の申請を行ったのが始まりと聞く。
この泰蔵さん、かなりのやり手であった。
もともとは新潟は佐渡島の仕立て屋の三男坊で、明治6年に23歳で小樽へ渡り呉服屋の養子として番頭となる。しかしその2年後には、ニシン漁で賑わう増毛に移住し、自ら呉服屋を営んだ。「丸一本間」の誕生だ。
この時点で、なかなかのバイタリティの持ち主だとわかる。
さらに、荒物商・海運事業さらにはニシン漁にまで事業を拡大。そしてとうとう、日本酒の醸造を思い立ったという。
明治35年に「丸一本間」は合名会社化したため「丸一本間合名会社」となり、同時に酒造場のみ現在地に移設。「丸一本間合名会社酒造部」と称した。それから100年後の平成13年に「国稀酒造株式会社」と改名。
国稀酒造の特徴
暑寒山麓伏流水
醸造所の敷地内に水汲み場がある。暑寒山の雪解水が水脈を流れ、ここの地下15mに溜まるらしい。
風水では大地の気は、尾根伝いに流れ降りてくる。その流れを龍脈という。龍脈が地上に噴き出す地点を龍穴と呼ぶ。水脈も同じである。
そして龍穴上にある家は永きに渡り繁栄するという。まさに国稀酒造の繁栄は龍穴の恩恵ではなかろうか。
というのは置いといて、、、
水質は他の北海道を代表する蔵元の水と比較してもかなりの軟水。この水で仕込むとなると、発酵にはかなりの時間がかかるはず。その間、糖化とのバランスを調整しながら最適な環境を造り続けなければならない。
そんな苦労と引き換えに、誰にも飲み飽きしない、柔らかな辛口が生まれるのである。
原料米
原料米は、北海道産の吟風をメインにしているが、よくなったとはいえ北海道の酒造好適米は扱いにくいようで、大吟醸クラスは兵庫県産の山田錦を使用している。
道産米の割合を増やしたいのだが、、、まだまだ、、、といったところのようだ。もちろん、ここの超軟水との相性も研究材料の一つだろう。
ただ、近年に誕生した初雫は、もろみでの溶け具合もいい感じで、国稀が目指す淡麗な酒質に合うのではという感触を得ているという。
今後に期待したいところである。
が、我々としては道産米であろうがなかろうが、おいしけりゃそれでいいのではあるが、、、
主な商品の紹介
国稀 大吟醸
山田錦の38%、そしておそらくは協会9号酵母だろう。鑑評会出品レシピに近いものと思われる。
アル添の大吟醸であるからして華やかな吟醸香が、、と思ったが意外と穏やかで控えめな香り。口に含むと、まさに淡麗。苦味・酸味を感じることなく、スムーズに喉の奥へと消えていく。後味はアル添によるものだろうか。切れが凄く後味は少ない。
いい意味で特徴がないのである。昨今は米の旨みを引き出した飲み応えのあるタイプが流行っているので、物足りなさを感じる人もいるだろう。
しかし大吟醸としては珍しく、薄味の料理なら何でも合いそうな「食中酒」として楽しめる1本である。
山田錦100% | 日本酒度 +4~6 |
精米歩合 38% | 酸度 1.2~1.4 |
アルコール度 15~16 |
鬼ころし
日常酒を醸すことを基本とする酒蔵である国稀酒造の「佳選」に並ぶ代表格。
少し甘い香り、クセがないスッキリした口当たり、ピリッとくるアルコールの刺激が合いまって「超辛口」の酒に仕上がっている。この雑味のなさは超軟水のなせる業なのだろうか。
北海道の魚介類によく合う食中酒だ。
国産米100% | 日本酒度 +10~12 |
精米歩合 65% | 酸度 1.3~1.5 |
普通酒 | アルコール度 17~18 |
千石場所
かつて増毛の海はニシン漁で賑わい、「千石場所」と呼ばれていたらしい。 その頃の賑わいにちなんで名付けたという。
原料米は酒造好適米の五百万石。その五百万石を60%まで精白した本醸造だ。 口の中に豊かな含み香を残しながら後味のキレの良さをあわせ持つ辛口の酒。
五百万石100% | 日本酒度 +6~8 |
精米歩合 60% | 酸度 1.5~1.7 |
本醸造酒 | アルコール度 16~17 |